無題
 

リムライムが時空転送されてから1年が経った

『イピ、どこだ?』

エリアルは今日も魔法書を読み漁り、時空転送の謎を追求していた
しかし結局答えは今日も見つからない・・・・

あまりにも本に没頭して時間が経つのを忘れていた
気がつくともうお昼だ・・・・

『そろそろ昼か・・・』

エリアルはイピリアを呼んだ

『イピ!』

返事はない・・・

エリアルはイピリアからの返事がないので、書斎から1階のリビングに降りて来た
そしてリビングを見渡した。

『イピリア?』

しかしリビングにイピリアの姿はない

残るはキッチンか・・・・

エリアルはキッチンへと移動した

『あ!』

そこでエリアルは床に倒れているイピリアを見つけた

『イ、イピ!?どうしたんだ?イピ?』

エリアルは慌ててイピリアを抱え上げた

するとイピリアの体がほのかに発光しているのがわかった

『これは・・・・』

イピリアは朦朧とした眼差しでエリアルを見た

『エリアル・・・さま・・・』

『イピ?どうした?エリアルさまなんて・・・いつものパパでいいぞ?どうした?』

『エリアル・・さま・・・・イピリア・・・・・もう・・・・だめかも・・・しれないです・・・』

エリアルの背筋に何か冷たい電撃のようなものが走った
その瞬間にイピリアの発光の正体がわかった・・・・・

『何故だ・・・魔力崩壊だと?・・・・・』

イピリアの体からはすこしずつではあるが魔力が抜けていっている

『イピリア!だめなんかじゃない!おい!しっかりしろ!』

エリアルはイピリアを抱えてベットへ急いで運んだ

『エリアル・・・・さま・・・・・』

『話すな!魔力を消費するな!きっと治してやるから!!』

とは言ったものの原因がわからない・・・・
なぜ人体が魔力崩壊を起こすのか・・・
イピリアは今は完全な人間のはずなのに・・・・
長年生きてきたエリアルにとっても初めての出来事だった

『くそう・・・・ダークヒール!!!』

エリアルは無我夢中で回復魔法を唱えた
しかし回復魔法はまったく効果を見せない

『魔力を・・・受け付けれないのか・・・・』

『エリアル・・・さま・・・私・・・・・』

『話すなって言ってるだろ!お願いだから静かにしておいてくれ・・・・』

エリアルは焦っていた・・・・
目の前で弱り果てているイピリアにどうする事も出来ない

なにがマスターウィザードだ・・・
何も意味ないじゃないか・・・
何も出来ないじゃないか・・・

エリアルは心の中で叫ぶ

《兄貴!兄貴!助けてくれ!兄貴!!!》

それは心からの願いでもあった・・・・

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ここはピスキー家

『ぎふたん!お茶はいったよ!』

ピスキーは奥からお茶を持ってぎふの前へとやってきた

ぎふはお茶を見た瞬間に表情が曇る

『お茶ですか・・・でもこのお茶・・・・真っ赤ですが・・・』

ピスキーはにこにこしながらぎふに言った

『これはね、レンファちゃんにならった唐辛子茶っていうん!』

ぎふは困り果てている

『うーん・・・私は遠慮しておきますかね・・・』

『えー折角いれたん・・・すこし飲んで・・・』

とその時!!

《兄貴!助けて・・・》

ぎふの脳裏にエリアルからの思念が届いた

『ピス、ちょっとお出かけしてくるよ』

『え?なんなん突然?どこいくん?』

『ちょっとエリアルの所にね・・・』

『え?えりりん?まって!わしもいくん!』

『いや、急ぎらしいからすぐにいく』

『えーーわしもいく・・・』

ぎふは転送魔法を唱えるとピスキーの目の前から一瞬にして消えた

『はやすぎるん・・・』

***********************************************

エリアルは自分の目から涙が溢れ出ている事に気がついた
そしてそれは理性で止める事が出来ない・・・・
こんな経験は・・・・3度目・・・

1度目はグリアが死んだ時・・・
2度目は・・・イピリアが・・・

嫌だ・・・・もうこんな思いを何度もしたくない!
しかし涙は止まらなかった

『イピ・・・がんばれ・・・・絶対助かるから・・・・助けてやるから・・・・・』

イピリアは一生懸命に微笑んだ

『うん・・・・信じて・・・る・・・・』

エリアルは悔しかった・・・イピリアが苦しむのに・・・・何も出来ない!!!

これは俺に対する試練なのか?
3度も・・・俺から愛する人を・・・・奪うのか?
俺の命をくれてやる!だから・・・・愛する人を俺から奪うのはやめてくれ・・・
お願いだ・・・イピを助けてくれ・・・・

心の底でエリアルは懸命に祈った

その時!

ビューーーーン!!!!
激しい光と音がした瞬間にエリアルの前にぎふが現れた

『あ、兄貴!』

ぎふは発光を始めているイピリアを見た

『魔力崩壊・・・・・か・・・・』

エリアルはぎふにしがみついた
そして藁をもすがる思いで頼んだ

『兄貴・・・イピを!イピを助けてくれ!』

『お願いだ・・・助けて・・・・』

ぎふはすぐにわかった
こうなった原因を・・・・

『こんなに早くに互いに魂が反発しあうとはな・・・・』

エリアルもその一言でイピリアがどういう状況にあるのかを把握した・・・

そう・・・虹蛇は神竜族だ・・・純潔魔族の魂(グリア)で一度生き返ったイピリアは
神としての魂と魔族としての魂を両方もって生きていた
普通であれば、神竜族と魔族とお互いの魂は干渉しあい、そして反発しあう
今まではなんとかバランスを保っていたがついにその均衡がついに崩れたのだ
そう・・・イピリアは今お互いの魂が反発しあい生命の魔力崩壊を始めたのだ

『兄貴・・・イピは?イピは・・・・助からないのか?』

ぎふは助かると言ってやりたかった・・・・
しかし・・・現実的には難しい・・・・
いや・・・無理だ・・・・

『最大限努力する・・・』

そう言うとぎふはイピリアの胸のボタンを外した

『おい!こら!何してるんだ!』

ぎふは冷静さを失いかけているエリアルに怒鳴った

『最大限努力すると言っているだろ!!!』

エリアルがぎふの怒鳴り声を聞き我に返った

『す、すまん・・・兄貴』

『心臓に近い位置の肌に直接手をあてて、私の魔力を注ぎ込む』

『じゃ、じゃあ俺のも!』

『エリアル・・・お前は娘を・・・リムライムを連れ戻せ!』

『リム!?リムを!?』

『そうだ・・・早く・・・お前ならできる!早く!』

イピリアは苦しそうな表情でエリアルを見ている

よく見るとイピリアは指先が・・・消えている・・・・・・
魔力崩壊によって体が原子にまで分解されている!?
そんな・・・エリアルはぎふの顔を見た

ぎふはすべてわかっていた・・・・ただ今は全力を尽くすしかない・・・

ぎふはエリアルの知らない魔法を唱えるとイピリアの胸に手をあてた
その瞬間ぎふの体が青く発光し始めた

『兄貴・・・頼む・・・・』

ぎふは魔力を注ぎこみながらイピリアを見ていた
イピリアが目でぎふに何かをうったえているのがわかった

『エリアル・・・・イピリアが何か言いたいらしい・・・』

イピリアは小声で何か言っている

『な、なんだ?イピ?』

『最後・・に・・・・リム・・・ちゃんに・・・・』

『わかった・・・絶対に連れ戻すから!それに最後なんかじゃない!』

エリアルは目を閉じた
そして念じる

俺は・・・・今までグラン王家の血筋に本気で頼ろうと思った事はなかった
でも・・・今日は別だ・・・・・・
王家の血よ!俺を助けてくれ!俺に力をくれ!!!!
お願いだ・・・・
助けてくれ・・・
力を・・・くれ!!
お願いだ・・・・・

その瞬間脳裏に何者かの声が聞こえる

《我の力が必要なのか?》

ああ!必要だ!

《我は時空の力・・・お前が臨むものは何だ?》

俺の娘を・・・リムライムを我が元へ・・・・

《お前の子孫をお前の元へ》

そうだ!力を貸してくれ!

《我は時空の力!汝に我の力を与えよう!》

エリアルは目を開くと魔法を詠唱した!

『時空魔法!時空転移召喚術!』

エリアルの目の前に虹色に輝く魔法陣が現れた!

ぎふはそれを見ると言った

『エリアル・・・・やはりお前はミュウ王女と同じ・・・正当なグラン王家の力を・・・・・』

イピリアは虚ろな目で虹色に輝く魔法陣を見た

『エリ・・・アル・・・・さま・・・・・』

魔法陣は更に激しさをましそして消えていった・・・・
そして魔法陣があった跡には1人の女の子が・・・・

そう・・・そこにはリムライムの姿があった!!!

『リム!リム!!!!』

エリアルはリムライムを抱きしめた

『え!ここはどこ?いきなり目の前が明るくなって?え?パパ???』

『え!?何?急に抱きついてきて!?どうなってるの?』

エリアルはぼろぼろと涙を流しながらリムライムに言った

『リム・・・ママが・・・・ママが・・・・・』

『パパ!?どうしたの?何があったの!?』

リムライムは何が起こったのか把握できないまま周囲を見た
するとそこには生気を失った母親の姿が・・・・

『ママ!?ママ!どうしたのママ!!!』

イピリアはリムライムを見た・・・・・
久々に見る我が娘・・・・・

『リム・・・ちゃん・・・・・・』

イピリアの目からそっと涙が流れた・・・・・・

ぎふはぜぇぜぇと息を切らしながら言う

『エリアル・・・・そろそろ私も限界だ・・・・』

『最後に全魔力を注ぎ込む・・・・そこで・・・ちゃんとイピリアと・・・・話しをしろ!』

エリアルはその一言で悟った・・・・

『兄貴・・・イピは・・・助からないのか・・・・・』

『・・・・・・・・すまん・・・・エリアル』

そういうと同時にぎふの体は青白く激しく発光した
そして一瞬で光は消えてぎふは床へと倒れた

『あ、兄貴!?』

『パパ!?ママどうしたの?ママは?ねえ!答えてよ!』

エリアルはイピリアの方を見た
イピリアはぎふの魔力注入のおかげか僅かだが生命力を取り戻している

『エリアルさま・・・・・』

『イピ・・・』

『リムちゃん・・・・』

『ママ!?』

『ごめんね・・・・リムちゃん・・・折角戻ってきてくれたのに・・・もうすぐお別れなんだよ』

『え?何?意味わかんないよ!突然言われてもわかんないよ!』

『エリアルさま・・・・今までありがとうございました・・・・』

『イピ・・・・そんな事言うな・・・そんな事・・・言う・・・なよ・・・・・・』

『私はエリアルさまと出会えて・・・・そして結婚出来て・・・・リムちゃんを生めて・・・すごく幸せだった・・・・』

『うう・・・イピ・・・』

『ぎふ様の魔力ももうすぐ切れます・・・そうすれば私もきっと・・・・でもね!悲しまないでください・・・
 私は1度死んだ身なんです・・・・グリアさんのお陰でここまで生きてこれた・・・これだけでも幸せだったんです!』

『ママ!何言ってるの?私やだよ!折角戻ってこれたのに・・・・・何で!何で!!!パパ!パパ!パパは
 すごい魔法使えるんでしょ!ママ助けるくらい出来るんでしょ!ねえ!ねえ・・・・・』

リムライムはエリアルをドンドンと何度も叩いた・・・そして泣きながら崩れ落ちた

『うわーん・・・ママ・・・いやだ・・・何で・・・・』

イピリアはそんなリムライムを見てやさしい笑顔で言った

『リムちゃん・・・ごめんね・・・・あまりパパを責めないで・・・・パパのせいじゃないのよ・・・・
 大丈夫・・・貴方は強い子だから・・・・・パパを守ってあげてね・・・支えてあげてね・・・・』

『やだよ・・・いやだ・・・ママ!死んじゃいやだよ!!!』

エリアルは改めてイピリアを見た・・・・
手先・・・足・・・・もう原子化されて消滅している・・・・
もう・・・・止める事は出来ないのか・・・・・

こんなに・・・・やさしい・・・・笑顔を・・・・俺は失うのか・・・

『エリアルさま・・・・・そんな顔をしないで・・・・・』

『すまん・・・イピ・・・・・』

『あのね・・・最後にお願いがあるの』

『なんだい?・・・・』

『キスして欲しいです・・・・』

『そんな事か・・・・・』

『うん・・・・』

エリアルは溢れる涙を堪えてイピリアの側に寄った
そして自分の唇をイピリアのへと重ねた

その瞬間・・・・・

《ありがとう・・・・エリアルさま・・・・・・・・・・・》

イピリアから最後の力を振り絞った思念が届く・・・・

そして・・・・それと同時にイピリアから命の灯火が消えるのがわかった・・・・・

『イピの・・・馬鹿・・・やろうが・・・・』

それ以上の言葉が出なかった・・・・・

イピリアは静かに・・・そして・・・永遠の眠りについた・・・・・

灯火が消えたのに・・・・原子化は止まらない・・・・
目の前で・・・・どんどんと原子化して消えてゆくイピリアの体・・・・
それは光輝き・・・・蒸気のように・・・・・

神様・・・・俺に・・・・イピリアが生きていた証を・・・・何も残してくれないのか?
答えてくれよ・・・・




終わり

























































ある晴れた日イピリアの墓標の前

『ふう・・・これでよしっと・・・・』

エリアルはイピリアの大好きな花を一面に敷き詰めた・・・・・

『イピ・・・・俺は・・・・まだ・・・・』

エリアルは人の気配を感じた

『エリアル・・・・』

『ん?兄貴か・・・・』

『もう1年になるか・・・・』

『ああ・・・・』

『早いな・・・』

『ああ・・・・』

『すまん・・・あの時どうにもしてやれなくって・・・・』

『兄貴のせいじゃない・・・・それに兄貴はすぐに飛んできてくれた・・・・・』

『・・・・・』

『きっと・・・運命だったんだよ・・・・』

『かも・・・しれんな・・・』

『でも・・・・・俺は後悔なんてない』

『強いな・・・』

『いや・・・そんなに強くないよ』

『いや・・・・強いよ・・・・お前は何度もこういう試練を乗り越えてる・・・』

『・・・・・』

『俺・・・・イピリアの生きてる証を残してくれない神様をすごく恨んだ』

『・・・・・』

『でもな兄貴・・・・・・・俺にはイピリアが生きていた証が・・・ちゃんと残っていたんだ』

『リムライムか・・・・・・・大事にしてやれよ』

『ああ・・・もちろんだ・・・俺の大事な宝だ・・・・』









いや・・・







俺とイピリアと2人の宝・・・・・

イピリアの生きていた証なんだからな・・・・・



完




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